カテゴリ「シネマの窓」の記事
2007年5月29日 (火)
眉山

東京の旅行代理店で働く河野咲子(松嶋菜々子)に一本の電話が入る。母・龍子(宮本信子)が入院したという報に急きょ徳島に帰る。医者から龍子の病をガンと知らされた咲子は、余命いくばくもない龍子に寄り添いながら、気丈夫な龍子との間に横たわっていた気持ちの齟齬を解かして行く。
咲子の父親は龍子から死んだと聞かされていたが、生きていることを知った咲子は、東京に住む父親を訪ねる。
龍子はかつて妻子のある篠崎孝次郎(夏八木勲)との間に咲子をもうけた。東京に生まれ神田で小料理屋の女将として働いていた龍子は、篠崎が愛したふるさと徳島の眉山のふもとで咲子と二人、生きる決心をする。
咲子は開業医を経営している父に会う。もうすぐ阿波踊りの季節が・・・、と懐かしむ父・孝次郎に「よろしければ、阿波踊りに遊びにいらして下さい」と言って咲子は孝次郎のもとを去る。
阿波踊りを生活の中心に据える徳島の人と季節を背景に、江戸っ子の誇りに生きた母・龍子と、気強い母を戸惑いながら見つめてきた娘・咲子の間の心の機微を、吉野川の川面に、眉山の山かげに映している。
少しリアリティに欠けるストーリーであるが、その分ほどよい浮遊感が漂よってくる。
(於いて:ハーバーランド シネモザイク Cine� 05/28日)
監督:犬童一心
原作:さだまさし『眉山 -BIZAN-』(幻冬舎刊)
脚本:山室有紀子
音楽:大島ミチル
出演:松嶋菜々子/大沢たかお/宮本信子/円城寺あや/山田辰夫/黒瀬真奈美/
永島敏行/金子賢/夏八木勲
日本公開:2007年5月12日
2006年/日本/120分
投稿者 愉悠舎 日時 2007年5月29日 (火) シネマの窓 | 個別ページ
2007年9月29日 (土)
めがね

久しぶりに神戸の街を歩く。まだ海外ボケが残り少し気だるいが、所用を済ませ映画を観た。
日本の南、その海辺で宿を経営するユージ(光石研)のもとに毎年春になるとやって来る女性・サクラ(もたいまさこ)、少し遅れてふらっと現れた女性・タエコ(小林聡美)、地元の高校教師・ハルナ(市川実日子)、タエコを追ってきた青年・ヨモギ(加瀬亮)と犬一匹を中心とする日常をさりげなく画いている。
朝、近所の人たちと共に体操をし、日中は思い思いの時を過ごし、たそがれ時浜辺で海を見ながら時を送る。夕餉の食卓を囲み問わず語りに口をつく何気ない会話、そんな繰り返しの日々をユージは「たそがれる」と言う。
時を「動いて」生きつなぐのではない、時空を「動かず」静かに迎え撃つ、現代の日本人が見失ってしまっている精神生活のありようを問うている。
(於いて:元町 シネ・リーブル神戸 Cinema 1 09/28日)
監督/脚本:荻上直子
企画:霞澤花子
プロデューサー:小室秀一 / 前川えんま
撮影:谷峰登
美術:富田麻友美
編集:普嶋信一
音楽:金子隆博
出演:小林聡美/市川実日子/加瀬亮/光石研/もたいまさこ/師丸ひろ子/橘ユキコ/中武吉
配給:日活
公開:2007年6月22日
2007年/日本/106分
投稿者 愉悠舎 日時 2007年9月29日 (土) シネマの窓 | 個別ページ
2007年10月19日 (金)
題名のない子守唄

1956年、シチリア島バゲリアに生まれたジュゼッペ・トルナトーレ監督が同じイタリアの北部、東欧に近いアドリア海に面したトリエステを舞台に、ウクライナからやって来た女性・イレーナ(クセニャ・ラポポルト)の苦悩と幼な児に注ぐ偏った愛情をサスペンス風に画いている。
忌まわしい過去を持つイレーナは事あるごとにその記憶がよみがえり苦しむ。
トリエステで貴金属商を営むアダケル家のメイドが階段でつまずいて転げ落ちる。その交代としてイレーナはアダケル家に入り込む。アダケル夫人(クラウディア・ジェリーニ)の信用を得てイレーナは4歳になるアダケル家の娘テア(クララ・ドッセーナ)を偏愛する。
イレーナがテアに注ぐ異常な愛情はイレーナの暗い過去と深く結びついている。その謎が解き明かされるに連れてヨーロッパの翳(かげ)の部分が鮮明になる。その陰湿さに思わずたじろぐ。
ヨーロッパの裏社会の暗部が一人の女性を通してあぶり出され、うら寂しい北イタリアの古い街並みがイレーナの心の闇を際立たせている。
(於いて:ハーバーランド シネカノン神戸 Cinema 2 10/18日)
監督/脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
音楽:エンニオ・モリコーネ
出演
クセニャ・ラポポルト/ミケーレ・プラチド/アンヘラ・モリーナ/
クラウディア・ジェリーニ/マルゲリータ・ブイ/ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ/
クララ・ドッセーナ/アレッサンドロ・ヘイベル
英題: LA SCONOSCIUTA
配給: ハピネット
日本公開: 2007年9月15日
2006年/イタリア/121分
投稿者 愉悠舎 日時 2007年10月19日 (金) シネマの窓 | 個別ページ
2007年10月23日 (火)
クワイエットルームにようこそ

1962年福岡県生まれの松尾スズキ監督は俳優、作家や演出など多岐にわたり活動しており、映画の原作「クワイエットルームにようこそ」は、第134回芥川賞にノミネートされた。
同小説を映画化した作品を観た。
フリーライターの佐倉明日香(内田有紀)は、ある日気がつくと見知らぬ一室に拘束されていた。
多忙な日常を凌ぐためアルコールと睡眠薬にたより、昏睡状態になっていたのを同居人・鉄雄(宮藤官九郎)に発見され、病院へ運び込まれた。鉄雄の思い込みにより医者は、明日香に希死念慮の可能性があるとしてベッドに拘束してしまった。
何が何かを飲み込めない明日香は、病院での生活を余儀なくされる。
病院生活を送る「一風変わった」人たちの生活を通して、明日香は自分の中の何かを発見して行く。
患者に厳しいナースの江口(りょう)、子に捨てられた過食症の西野(大竹しのぶ)、食べ物を口にすることができないミキ(蒼井優)など、心にくすぶる何かを抱えている人々の哀歓が、ユーモラスを交えながら画かれて行く。
横道のない真っ直ぐな道しか歩けない人たちの在り様が、クワイエットルームに弾けている。
(於いて:ハーバーランド シネカノン神戸 Cinema 1 10/22日)
監督/脚本:松尾スズキ
原作:松尾スズキ「クワイエットルームにようこそ」(文藝春秋刊)
音楽:門司肇 / 森敬
出演
内田有紀/宮藤官九郎/蒼井優/りょう/妻夫木聡/大竹しのぶ/
中村優子/高橋真唯/箕輪はるか(ハリセンボン)/塚本晋也
配給: アスミック・エース
公開: 2007年10月20日
2007年/日本/118分
投稿者 愉悠舎 日時 2007年10月23日 (火) シネマの窓 | 個別ページ
2007年11月 3日 (土)
「サン・ジャックへの道」&「フランシスコの2人の息子」

神戸の湊川にある二番館で、半年ほど前に日本で公開された2本の映画を観た。
「サン・ジャックへの道」
キリスト教徒の聖地、ヨーロッパ三大巡礼地の一つサンティアゴへの巡礼道を舞台に、聖地を目指す3人の兄弟・姉の家族愛の再生と同道する6人の交流を、美しい風景と古跡をバックに画いている。
「サンティアゴへの巡礼道」はローマ、エルサレムと共にキリスト教徒敬愛の巡礼道として中世から多くの人がスペイン北西部のサンティアゴ・デ・コンポステーラを目指した。この聖地でキリスト12使徒の一人、聖ヤコブ(サンティアゴ)の墓が9世紀のはじめ発見され、それ以後カトリック教徒の聖地として崇められている。
サンティアゴへの巡礼道の中で、フランス各地からピレネー山脈を越えて聖地に向かう道を「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」とよ呼んでいる。
スペイン国内の巡礼路は1993年に「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」としてユネスコの世界遺産になっている。
母親の遺産が転がり込んできた3人の男女、会社を経営している兄のピエール(アルチュス・ドゥ・パンゲルン)は会社や家族のストレスで躰や心を病んでいるが遺産に執着は全くない。 姉のクララ(ミュリエル・ロバン)は3人の中で支配的な立場を維持しながら学校の教師をしている。弟のクロード(ジャン=ピエール・ダルッサン)は酒に溺れ身を持ち崩している。
母の遺言は全財産を公共に寄付する。ただし、3人の子供が揃って聖地への巡礼を為せば遺産は子供に与えるというものであった。
とにもかくにも3人は1500km彼方の聖地を目指して巡礼を決行する。
同行したのはガイド、ハイキング気分で参加した二人の女性、女性の一人に好意を抱くアラブ移民の若い男、男はいとこにイスラム教の聖地メッカに行けると二人分の旅費を捻出させ、いとこと共に女性を追ってきた。それともう一人の女性の9人がフランスのル・ピュイから旅にでる。
旅は苦しいながらも、助け合い励ましあいながらピレネー山脈を越える。山脈を越えたところで3人に、母の遺言はピレネー山脈を越えるまでの報が入る。旅を止めて引き返す3人だが同行者との交流を断ち切れず戻ってくる。
再び聖地を目指した9人は点在する教会の理不尽な仕打ちにもめげずお互いの心を解かして行く。
同行するそれぞれが抱えている心や躰の傷を、長い巡礼の道を共に歩き、心を通わせることにより回復し、本来の心や躰に再生して行くさまを無理なく画いている。
「フランシスコの2人の息子」
ブラジルの人気歌手デュオ、ゼゼ・ヂ・カマルゴ&ルシアーノの半生をダイナミックな南米の風景の中に映し出している。
小作農民の暮らしに甘んじているフランシスコ(アンジェロ・アントニオ)は息子たちにミュージシャンへの夢を託しながら、その日その日を凌いでいる。家計のやりくりに苦慮している妻のエレーナ(ジラ・パエス)、夫が音楽のために稼ぎを注ぎ込む異常ぶりに辟易している。
夫婦は7人の子に恵まれ、フランシスコは上2人の男の子をミュージシャンに育てようとして全力をその子供に傾注する。ようやく芽をだしはじめた矢先その一人を交通事故で失う。後を継いだ弟と2人で兄弟は大都会サンパウロへと夢を大きくして行く。
貧しい農民の子が独学でブラジル音楽界の頂点に昇りつめるまでの半生を淡々と画いて新鮮だ。
1960年代から70年代のブラジルの農村風景に、かつて確かに存在していた日本の風景がダブる。
家族愛や家族の絆の大切さを素朴ななブラジルの地に投影させている。
(於いて:湊川 パルシネマ 11/02日)
監督・脚本:コリーヌ・セロー
撮影:ジャン=フランソワ・ロバン
音楽:ユーグ・ル・バール
出演
ミュリエル・ロバン/アルチュス・ドゥ・パンゲルン/ジャン=ピエール・ダルッサン/
パスカル・レジティマス/マリー・ブネル/マリー・クレメール/フロール・ヴァニエ=モロー
英題:SAINT-JACQUES... LA MECQUE
配給:ハピネット
日本公開: 2007年3月10日
2005年/フランス/112分
(於いて:湊川 パルシネマ 11/02日)
監督:ブレノ・シウヴェイラ
脚本:パトリシア・アンドラデ/カロリナ・コチョ
出演
アンジェロ・アントニオ/ジラ・パエス/チアゴ・メンドンサ/
パロマ・ドアルテ/ジャクソン・アンツネス/ナターリア・ラジェ/ダブリオ・モレイラ
英題: TWO SONS OF FRANCISCO
配給: ギャガ・コミュニケーションズ
日本公開: 2007年3月17日
2005年/ブラジル/124分
投稿者 愉悠舎 日時 2007年11月 3日 (土) シネマの窓 | 個別ページ
2007年11月17日 (土)
ALWAYS 続・三丁目の夕日

山崎貴監督が西岸良平の漫画をもとに、前作に続いてメガホンをとった。
前作の昭和33年(1958年)は東京タワーが建設中だった。本作の昭和34年は既に東京タワーも完成し、高度経済成長期に突入した日本は、農業を切り捨て技術立国のレールに乗ってしまった。
助走を終えた日本号は闇に向かってただひたすら走り続ける。
東京の夕日町3丁目に暮らす人々は時代の予感を感じつつ、ささやかな幸せに夢をつなぎ、けなげにそしておおらかに生きて行く。
その日暮らしの生活を送る貧乏作家茶川(吉岡秀隆)は他人(ひと)の子・淳之介(須賀健太)と暮らしている。淳之介を連れに来た実父・川渕(小日向文世)の引き取りを断り、茶川から身を隠した石崎ヒロミ(小雪)を想い、夕日町3丁目にくすぶる。ある日ヒロミの消息を知った茶川は、淳之介とヒロミのために再び芥川賞に挑戦する。
茶川の向かいで鈴木オートを経営する鈴木則文(堤真一)、トモエ(薬師丸ひろ子)夫妻は集団就職で上京した六子(堀北真希)、息子の一平(小清水一揮)そして親戚の鈴木大作(平田満)から預かった娘・美加(小池彩夢)との生活に忙殺されている。
則文は戦争体験を抱きながら生き続け、トモエは戦争で引き裂かれた元恋人・山本(上川隆也)と偶然日本橋で再会を果たす。
3丁目の人々はさまざまな出会いと困難にぶつかりながら茶川の芥川賞受賞に向かって心を一つにして行く。
人々の暮らしがまだ貧しかった頃の、人々が助け合わなければ暮らしが成り立っていかなかった頃の、3丁目を照らす夕日は優しくてきれいだ。
金で買えないものを3丁目の住民は探し続ける。そして、私は次作を待つ。
(於いて:ハーバーランド シネモザイク Cine1 11/09日)
監督:山崎貴
原作:西岸良平
出演
吉岡秀隆/堤真一/小雪/堀北真希/もたいまさこ/三浦友和/
薬師丸ひろ子/須賀健太
配給:東宝
公開:2007年11月3日
2007年/日本/146分
投稿者 愉悠舎 日時 2007年11月17日 (土) シネマの窓 | 個別ページ
2008年5月17日 (土)
最高の人生の見つけ方

最近映画を観る機会がめっきり減った。
淡路に定住するようになったためであるが、ここ淡路市に映画館が一軒もない。隣の洲本市に「洲本オリオン」という映画館はあるが、未だ足を運んでいない。
金曜日、午前中ボランティアで三宮に出向いた。
午後、久しぶりに映画を観た。
「最高の人生の見つけ方」というアメリカ映画を、三宮のターミナルから、少し海の方に南下したところにある国際会館の11階で観た。平日にもかかわらず多くの観客で席は埋まっていた。
病室で知り合った二人の男が、人生の終末期を精一杯楽しむ物語である。
富も名声も手に入れたが、幾度もの結婚に失敗したエドワード(ジャック・ニコルソン)と、自動車の修理工として家族のために懸命に働いてきたカーター(モーガン・フリーマン)は、ガンに侵され余命いくばくもない。
二人はやりたいことを実現するために病院を抜け出す。
原題にある「The Bucket List」、棺おけに持ち込むリストとでも訳すのか、二人は死ぬまでにやりたい項目を作成したメモを持っている。「見知らぬ他人に親切にする」、「世界一の美女とキスする」、「腹の底から笑う」、「荘厳な景色を見る」…。その夢に向って二人は旅に出る。
スカイダイビング、その次はレース場でのカーレース。
そして、エドワードの自家用飛行機に乗って世界を巡る。北極の上空を飛び、地中海の美しい景色に酔い、ピラミッドのかたわらに腰を下ろし語り合う。
タージマハルから万里の長城へ、そしてヒマラヤのベースキャンプでチョモランマ(エベレスト)を望む。
思慮深いカーターの雑学と、エドワードの勇猛な決断力が一つになり、やり残した人生に挑む。
最期を迎えた初老の二人が、己が人生の誇りと悔いを裡(うち)に秘め、人生謳歌・人間賛美の旅をする。
人生はやりたいことを精一杯楽しみ、他人を大切にすることである。
二人のメッセージが聴こえる。
(於いて:三宮 神戸国際松竹 Cinema 4 05/16日)
監督:ロブ・ライナー
脚本:ジャスティン・ザッカム
撮影:ジョン・シュワルツマン
音楽:マーク・シェイマン
美術:ビル・ブルゼスキー
出演
ジャック・ニコルソン/モーガン・フリーマン/ショーン・ヘイズ/ロブ・モロー/ビヴァリー・トッド
原題:The Bucket List
配給:ワーナー・ブラザース映画
日本公開: 2008年5月10日
2007年/アメリカ/97分
投稿者 愉悠舎 日時 2008年5月17日 (土) シネマの窓 | 個別ページ
2008年6月 8日 (日)
光州5・18

昨日、ボランティアを終え、三宮センター街にある映画館で韓国映画を観た。
1980年5月韓国の光州(クワンジュ)、光州は朝鮮半島の南西部、全羅南道(チョルラナムド)にある。
軍事独裁政権・全斗煥(チョン・ドファン)のもとで民主化を求める学生や市民に銃を向けた軍事政権の弾圧、いわゆる「光州事件」を題材に、当時9歳だったキム・ジフン監督が風化しつつある事件の真実を知ろうと、そして何も知らなかった少年の日を悔いて、戒厳令に揺れた光州の10日間へメガホンを向けた。
タクシー運転手のミヌ(キム・サンギョン)は早くに両親を亡くし、弟ジヌ(イ・ジュンギ)と暮らす。ミヌには気持を傾ける看護師のシネ(イ・ヨウォン)がいる。彼女は母親を亡くし、父親フンス(アン・ソンギ)と暮らす。フンスはミヌが働くタクシー会社の社長で、かつては軍の空挺特別部隊予備役大佐だった。
彼らや、彼らを取リまく多くの友人・知人そして無数の光州市民の上に、ある日突然戒厳軍が発砲する。
戒厳軍は民主化を求める学生ばかりでなく、軍政に逆らう全てのものを無差別に攻撃する。
軍の暴走に市民は銃を持って立ち上がる。市民軍は道庁に立てこもり愛するもののために戦う。市民軍の指揮を執るフンスは全軍を前に「生きるために戦うのだ」とゲキを飛ばす。
武運つたなく市民軍は鎮圧され、この物語に登場した人々は、看護師のシネを一人残しみんな逝ってしまう。
ラストに物語の心象風景としてミヌとシネの結婚写真のシーンが映し出される。逝った人みんなが微笑みを投げかけ、シネだけが悲しみをたたえているのが印象的だ。
この写真にこめられたキム・ジフン監督の切ない想いが伝わってくる。
(於いて:三宮シネフェニックス シネマ3 06/06日)
監督:キム・ジフン
原案:パク・サンヨン
脚色:ナ・ヒョン
音楽:キム・ソンヒョン
イメージソング:工藤慎太郎
出演
キム・サンギョン/イ・ヨウォン/イ・ジュンギ/アン・ソンギ/
ソン・ジェホ/ナ・ムニ/パク・チョルミン/パク・ウォンサン
英題:MAY 18
配給:角川映画
日本公開: 2008年5月10日
2007年/韓国/120分
投稿者 愉悠舎 日時 2008年6月 8日 (日) シネマの窓 | 個別ページ
2008年6月20日 (金)
裸の十九才

先週の木曜日、テレビの映画チャンネルの一つである「日本映画専門チャンネル」で「裸の十九才」を観た。
1968年、19歳の若者が起こした「連続射殺魔事件」は、私の裡々にいつまでも痛みを残した。
この事件を題材に新藤兼人監督が2年後の1970年に映画化した。
当時、神戸でこの映画に接した私は、少し年下の若者が起こした事件に大きな衝撃を受けた。
主人公の山田道夫は青森県から集団就職列車で東京に出てくる。渋谷のフルーツパーラーに就職するが、一緒に就職した仲間が一人二人と辞めて行くなかで、彼も職場を離れて行く。
職を転々としながら、すさんで行く心身を必死に持ち堪えていたが、その糸も切れてしまう。
最初の殺人事件をプリンスホテルのプール脇で起こす。挙動不審でガードマンに呼び止められ、連行しようとしたガードマンに銃を向けた。
京都の八坂神社境内で寝ていた道夫に、警備員が立ち退きを命じる。道夫は第二の殺人を犯す。
函館でタクシーの運転手を撃ち、売上金を盗む。
名古屋でタクシーの運転手を襲った。第四の殺人であった。
その後、東京で発砲し、逃げる道夫は神宮外苑で警官に取り押さえられる。
道夫は北海道の網走に生まれる。博打に狂う父に変わって、子沢山の家庭を行商で支える母のもとで幼い日々を過ごす。幼い子供たちは食物を分けあい飢えを凌ぐ。
道夫は中学を卒業すると集団就職の列車に揺られ、東京へと押し出される。
貧困のなかで育った青年が、「金の卵」と煽られ、都会で経済的精神的に破綻をきたし、窒息感を裡に膨らませ、やり場のない憤怒を、同じ市井に生きる貧しい同輩に矛先を向けていくさまを、新藤兼人監督は当時の社会状況と併せ描いている。
この映画のモデルとなった永山則夫は獄中から手記「無知の涙」(合同出版)を発表しベストセラーになった。その後小説「木橋」(1983年・立風書房)で新日本文学賞を受賞した。印税は自らの手で殺めた人たちの遺族へ、償いとして充てた。
1997年8月永山則夫は処刑された。享年48歳であった。
事件から40年後の2008年6月8日、自動車会社に働く派遣労働者が東京の秋葉原で無差別殺傷事件を起こした。
監督脚本:新藤兼人
出演
原田大二郎/乙羽信子/草野大悟/佐藤 慶/渡辺文雄/殿山泰司/河原崎長一郎
公開:1970年10月31日
1970年/日本/117分
投稿者 愉悠舎 日時 2008年6月20日 (金) シネマの窓 | 個別ページ
2008年7月 2日 (水)
ぐるりのこと

失いそうになる人間の絆と心の拠りどころを探り当て、次代に生き継いで行こうとする若いカップルの再生の軌跡を、90年代の初頭から今世紀の初めまでの時代背景にスポットを当てながら丁寧に画いている。
物語の始まりは1993年、職を転々とし今は靴の修理屋で働くカナオ(リリー・フランキー)、妻の翔子(木村多江)は小さな出版社で編集者として働く。
ある日、法廷画家の仕事が舞い込んできたカナオは不承不承それを引き受ける。法廷画家は撮影が禁止されている法廷内で被告人の様子をスケッチする仕事である。
あるとき子供を亡くした翔子はその悲しみに耐え切れず、心のバランスを崩してしまう。
カナオは時代を映すさまざまな事件に直面しながら、法廷画家としての技術を身につけて行く。
不器用ながらも「生きる技術」も身に付けた頃、翔子は仕事を辞め、心療内科へ通う。
カナオは静かに翔子に寄り添い、心の回復を待つ。
翔子はカナオや回りの人たちのかかわりの中で、心の再生と希望を見いだして行く。
バブル崩壊から9・11テロまでの辛い時代を、自らも深い傷を負った若いカップルが、お互いを思う気持ちと回りの人たちの支えにより希望への第一歩を踏みだす。
まだまだ続く辛い時代に、人間の絆と優しさを呼びかけている。
(於いて:元町 シネ・リーブル神戸 Cinema 3 06/27日)
監督・原作・脚本・編集: 橋口亮輔
出演
木村多江/リリー・フランキー/倍賞美津子/寺島進/安藤玉恵/八嶋智人/寺田農/柄本明
配給:ビターズ・エンド
日本公開: 2008年6月7日
2008年/日本/140分
投稿者 愉悠舎 日時 2008年7月 2日 (水) シネマの窓 | 個別ページ