朝鮮の文化

朝鮮の文化

2010年3月19日 (金)
オンドル(温突)

 朝鮮の平壌(ピヨンヤン)の近くに生まれた私の母は八歳まで朝鮮で過ごした。寒くて冷え込む冬に、心と躰を温めてくれたオンドルの話をよくしていた。ストーブに日を入れる季節になると、母の口を衝いて出ていた「オンドル」を思い出す。

 冬、寒さの厳しい朝鮮半島はオンドルと呼ばれる床下暖房によって支えられていた。朝鮮の気候は大陸性と海洋性の双方を併せ持ち、季節風の影響を受ける冬はことのほか冷え込む。そんな日は、床下をくぐる煙の熱が床面を通して体内にもぐり込み、人に温みを与えてくれる。

 オンドルは床下に石と粘土で煙の通る道を造る。床下全面を煙の部屋にするのではなく、床面積の半分程度とするのが普通のやり方らしい。床面の温度を一様に保つため、煙道の形や石の配置に工夫が施される。煙道は密閉されており室内に煙が漏れることはなく、日本の囲炉裏のように部屋の中が燻ぶることはない。

 地面と粘土で覆われた空間にカマドで火を炊いて熱風を通す。かまどは普通炊事と兼用になっている。煙道を通り熱くなった煙は、住居の反対側に設けた煙突から外に出る。かまどは家の外にあるものや炊事のために土間にあるものもある。また、台所に接しない部屋の場合は暖房専用の炊き口を設ける。

 床は「チャンパン」と呼ばれる特殊な油紙を重ねて張り合わせマットにする。

 祖母父たちの居た頃より、さらに500年も前から受け継がれてきたオンドルは人々の生活スタイルに大きな影響を与えた。オンドルは部屋全体を温めれない、ベッドで寝るよりも布団を敷いて床の温みに身を任せる。オンドルの部屋には押入れがない、布団はタンスの中にしまう、タンスは熱による変形を避けるため脚を付ける。オンドルの熱効率を上げるため、部屋は狭く、天井を低くする。機密性を保つために窓は小さく、廊下はない。・・・。

 母の居た頃、燃料は薪を使っていた。そのため半島の山は禿山だったと母は嘆いていた。

 燃料も薪から練炭へ、石油からガスへと移り変わり、設備も熱効率の良い合理的な構造へと移って来たが、オンドルは半島の冬を彩っている。

投稿時刻 14時33分 朝鮮の文化 | 個別ページ