シネマの窓(06/12)

カテゴリ「シネマの窓」の記事

2007年2月28日 (水)
不都合な真実

  一昨日、アメリカのハリウッドで行われたアカデミー賞授賞式で元アメリカ副大統領のアル・ゴア氏が自ら出演した「不都合な真実」が長編ドキュメンタリー映画賞及びオリジナル歌曲賞の2部門でオスカーを受賞した。

 日本で公開されたこの作品を観よう、観ようと思っていたがいつしか忘れてしまっていた。アカデミー賞の報に接し、あわてて昨日観に行った。

 地球の温暖化が進行し、その脅威が我々の生活にもしのびよって来ている。もうすぐ春を迎えるが、多くの人が不安な日々を過ごした寒くない冬がもう終わろうとしている。

 2000年の大統領選挙でブッシュ氏に敗れたゴア氏は温暖化問題に積極的にかかわり、ヨーロッパやアジアなどでスライド講座を1000回以上開き、地球の温暖化に警鐘を鳴らし続けてきた。ゴア氏の活動に感激したジェフ・スコル「グッドナイト&グッドライク(2005年)の製作総指揮者」氏らが映画化を進め、ゴア氏の活動内容を映像化したものである。

 アメリカ政府が目をふさいできた「不都合な真実」を批判し、経済効率最優先の政府の姿勢を戒めている。
 人類にとってただひとつのふるさとである地球を救うために、切々と訴えるゴア氏の姿に痛切な想いを感じる。

(於いて:三宮阪急会館 02/27日)
監督:デイヴィス・グッゲンハイム
製作総指揮:ジェフ・スコル他
出演:アル・ゴア
原題:An Inconvenient Truth
配給:UIP映画
日本公開:2007年1月20日
2006年/アメリカ/96分
投稿者 愉悠舎 日時 2007年2月28日 (水) シネマの窓 | 個別ページ


2007年3月 3日 (土)
夏物語

  独り身で、老境の域に達したユン・ソギョン教授(イ・ピョンホン)に放送作家の教え子から「初恋の人を探すテレビ番組」への出演が持ち込まれる。番組の取材に訪れた教え子に、教授は一冊の古い本を差し出し「この本をある女性に返すと約束した、探してほしい」、教え子は女性を探す取材をはじめる。

 1969年の夏、軍事政権下に揺れる韓国の片田舎、農村へのボランティア活動に参加した大学生のソギョンは図書館で働くソ・ジョンイン(スエ)と知り合う。ジョンインは父が残して行った図書館を守っていた。父は字の読めない村人たちのために尽力していたが「アカ」のレッテルを貼られ、村を離れた。ジョンインは「アカ」の子として村人から疎まれていた。
 ジョンインを伴ってソウルに戻ったソギョンは学生運動に巻き込まれ二人とも逮捕されてしまう。
 ソギョンの父は官憲に働きかけ二人を獄から解放する。少し遅れて出獄するジョンインを、ソギョンは獄の外で迎える。二人はソウル駅に向かう。雑踏の駅舎でソギョンは薬を買いにでかけた。そのすきに、ジョンインは彼のもとを去る。

 ソギョンはジョンインを求めて全国を捜し歩いたが、ジョンインに再び会うことはかなわなかった。

 番組の取材陣はかつてジョンインの暮らした場所を探し当てた。
 田舎の学校でジョンインは子供たちの先生として校庭の片隅で花木を育てながら、ソギョンを思いつつ若くして逝ったことをソギョンに知らせる。

 軍事独裁政権下のもと、男と女が自由に愛し合うこともまゝならかった時代、体制に引き裂かれたひとりの男とひとりの女が、人生をその愛に生きた。
 今も独身をつらぬくソギョンの姿勢は体制と父親に対する悲痛な抗議でもある。
 二人の一途な思いに胸が熱くなる。

(於いて:三宮シネフェニックス 03/01日)
監督:チョ・グンシク
音楽:シム・ヒョンジョン
出演:イ・ビョンホン/スエ/オ・ダルス/イ・セウン/チョン・ソギョン/ユ・ヘジン
英題:Once in a summer
配給:エスピーオー
日本公開:2007年1月27日
2006年/韓国/116分
投稿者 愉悠舎 日時 2007年3月 3日 (土) シネマの窓 | 個別ページ


2007年3月 8日 (木)
ルワンダの涙

 アフリカ中央部にルワンダという人口800万人ほどの小さな国がある。ドイツ、ベルギーの植民地を経て、1962年独立した。
 永年ヨーロッパ列強の思惑にルワンダ国内の部族、フツ族やツチ族が利用され、独立後も部族間紛争の絶えることがなかった。

 「ルワンダの涙」は1994年に頂点に達したルワンダ政府内の過激派フツ族によるツチ族へのジェノサイド(大量虐殺)を扱っている。虐殺された人の数は数ヶ月で80万人と、この映画は伝えていた。

 ツチ族難民の避難所となった公立技術専門学校(ETO)を舞台に、ツチ族の難民を護るために命をはったイギリス人青年教師ジョー・コナー(ヒュー・ダンシー)、カトリック教会のクリストファー神父(ジョン・ハート)ら白人の視点を通し紛争の本質に迫っている。

 事態が切迫するなか、派遣されていた国連軍は学校に滞在していた白人のみを救出し、難民を見捨てて引き上げた。
 欧米諸国は「ルワンダに利益なし」として大量虐殺を黙認する。
 そして、止めれたはずの悲劇を国際社会(メディア、世論)は何もしなかった。

 この種の画像を直視するのは正直言ってきつい。しかしながら、虐殺を免れた人たちがこの映画のスタッフとして参加している。きついと言って目を背けるわけにはいかない。

(於いて:三宮シネフェニックス 03/05日)
監督:マイケル・ケイトン=ジョーンズ
脚本:デヴィッド・ウォルステンクロフト
音楽:ダリオ・マリアネッリ
出演:ジョン・ハート/ヒュー・ダンシー/クレア=ホープ・アシティ/ドミニク・ホルヴィッツ/ルイス・マホニー/ニコラ・ウォーカー他
原題:Shooting Dogs
配給:エイベックス・エンタテインメント
日本公開:2007.01.27日
2005年/イギリス・ドイツ/115分
投稿者 愉悠舎 日時 2007年3月 8日 (木) シネマの窓 | 個別ページ


2007年3月16日 (金)
歓びを歌にのせて

  シネカノン神戸の会員による「2006年・ベストテン作品」で外国映画第1位になった「歓びを歌にのせて」がアンコール上映されていた。

 「歓びを歌にのせて」はスウェーデンで160万人(スウェーデンの人口は約900万人)の観客を動員した、ケイ・ポラック監督の18年振りの作品である。

 ダニエル(ミカエル・ニュクビスト)は音楽家として名声を得、8年先のスケジュールが決まっている超多忙な生活を送っていたが、心と躰はボロボロになっていた。ある日、ダニエルは公演中に倒れ、全てを捨てて生まれ故郷のスウェーデン北部に還る。幼くして故郷を捨て、音楽家としてデビューしたときには名前を変えており、故郷の人々は彼を村の出身だと気付いていない。
 ダニエルは教会の牧師から聖歌隊の指導を頼まれ引き受ける。聖歌隊に集う人々はそれぞれの心に重荷を背負っていた。 ダニエルには持ち続けている夢がある。「人の心を開く音楽を造りたい」と、コーラスの上達とともに閉ざした人々の心も解けて行く。ダニエルの夢は少しずつ実って行く。
 聖歌隊はコンクールに参加することになり、オーストリアのインスブルッグに向かう。
 発表の会場は今か今かと指揮者・ダニエルの到着を待っていた。その頃ダニエルは会場のある建物の片隅で血を吐いて倒れていた。
指揮者のいないコーラスが会場を、建物を包む。ダニエルは歌声を聴きながら満ち足りた笑みを浮かべていた。

 一面黄金色のライ麦畑に揺れる穂がまばゆい。
「人の心を開く音楽を造りたい」、ダニエルの見た夢は名声や金銭からは決して生まれない、日常を懸命に生きる市井の人々のなかにこそ、それはある。

(於いて:ハーバーランド シネカノン神戸 Cinema 2 03/15日)
監督:ケイ・ポラック
脚本:ケイ・ポラック
音楽:ステファン・ニルソン
出演:ミカエル・ニュクビスト/フリーダ・ハルグレン/ヘレン・ヒョホルム
原題:Sa Som I Himmelen
英題:As It Is in Heaven
配給:エレファント・ピクチャー
日本公開:2005.12.17日
2004年/スウェーデン/132分
投稿者 愉悠舎 日時 2007年3月16日 (金) シネマの窓 | 個別ページ


2007年3月28日 (水)
キトキト!

 キトキト、とは富山地方の言葉でもともと新鮮なサカナを意味していたらしいが、「活きがいい」形容詞としてこの地方で使われている。

 遠くに北アルプスを望む富山県高岡市に暮らす母・斉藤智子(大竹しのぶ)とその子・優介(石田卓也)、優介の姉・美咲(平山あや)ら親子の固い絆と葛藤を、のどかな地方都市に27歳の吉田康弘が、監督初作品としてメガホンをとる。

 キトキト、は智子を指しての表現で、彼女はキトキトを地で行くような豪放快活な女性である。
 子供らがまだ小さいときに夫をなくした智子は、女手ひとつで二人の子供を育ててきた。
 姉の美咲は智子に抗って男と東京へ出奔して3年になる。高校を中退した弟・優介も智子から逃げるように友人の眞人(尾上寛之)を伴って上京する。智子は恋人・佐川(光石研)のサポートを得てスナックを開く。
 所用で東京に出かけた智子は優介の働く店で美咲と3年ぶりの再開をはたす。

 家族を社会に立ち向かう同志と捉えれば、家族が一致協力して社会の壁にぶち当たれば家族の絆もより固くなる。「現代社会」に抗して生きてゆくには家族が団結しなけばならない。そして、智子のように屈託なく生きて行こう・・・。画面は私たちにそう呼びかけている。

 大竹しのぶの存在感のある演技が素晴らしい。特に、優介を東京に送り出すプラットホームで、そこを立ち去る智子の後姿にみせる心の揺れは、彼女にしか出せない味がある。

(於いて:ハーバーランド シネカノン神戸 Cinema 2 03/27日)
監督・脚本:吉田康弘
製作:李鳳宇
撮影:木村信也
音楽:増本直樹
出演:石田卓也/平山あや/尾上寛之/伊藤歩/井川比佐志/
    大竹しのぶ/光石研/鈴木蘭々
配給:シネカノン
公開日:2007年3月17日
2007年/日本/109分
投稿者 愉悠舎 日時 2007年3月28日 (水) シネマの窓 | 個別ページ


2007年4月 4日 (水)
あかね空

  京で豆腐職人の修行を積んでいた永吉(内野聖陽)は、まだまだ先の暖簾分けを待てず江戸に下り、深川蛤町長屋で豆腐屋を開業する。同じ長屋に住む、おふみ(中谷美紀)と知り合った永吉は彼女と所帯をもつ。

 夫婦協力して京の柔らかくて、しなやかな豆腐を江戸の庶民のあいだに広めて行く。

 商いに精をだした結果、深川界隈で信用を得て名前も売れ、三人の子供にも恵まれる。
 苦しいとき、目をかけてくれた永大寺に出入りする老舗の豆腐屋、相州屋清兵衛(石橋蓮司)が亡くなり、妻・おしの(岩下志麻)は永代寺に相州屋の看板に変えて永吉夫妻の「京や」を名乗ることを託し身を引く。

 その店も、永吉が早馬に蹴り倒されて亡くなったあと、同業者・平田屋(中村梅雀)に乗っ取られそうになる。
おふみは持ち前の芯の強さで急場を切り抜ける。

 京で育ち、江戸の下町に生きる永吉の職人気質と、江戸は深川に育ったおふみの江戸っ子気質をあかね空に写し、永吉夫妻を囲む江戸庶民の哀歓を気負うことなく謳いあげている。

 VFX(※)を駆使し、迫力と立体感のある映像を構築している。

(於いて:三宮シネフェニックス 04/03日)
監督:浜本正機
原作:山本一力
出演:内野聖陽/中谷美紀/石橋蓮司/岩下志麻/中村梅雀/勝村政信
/泉谷しげる/角替和枝/武田航平/細田よしひこ/柳生みゆ/小池榮
配給:角川映画
公開日:2007年3月31日
2006年/日本/120分
(※) VFXとは、映像技術のひとつで、コンピュータグラフィックスによる映像の合成などの技術の総称である。主にコンピュータ処理によって表現される特殊効果を指す。(IT用語辞典バイナリ)
投稿者 愉悠舎 日時 2007年4月 4日 (水) シネマの窓 | 個別ページ


2007年4月11日 (水)
今宵、フィッツジェラルド劇場で

  昨年11月死去したロバート・アルトマン監督の遺作となった「今宵、フィッツジェラルド劇場で」を旧居留地にある朝日会館で観た。この映画館を訪れるのは何年ぶりだろう?、クラシックな館内に身を置くと気持ちが落ち着く。

 30年あまり放送を続けてきたラジオの音楽ショーが今宵で幕を閉じる。
 最後の公開生放送がミネソタ州セントポールのフィッツジェラルド劇場で行われた。
 ラジオ番組の名前はこの映画のタイトルになっている「A PRAIRIE HOME COMPANION 」で、この番組の音楽コメディショーと舞台裏の様子を、永年番組を支えてきたフィッツジェラルド劇場と、劇場に集まった聴衆とともに画いている。

 楽屋には番組の台本も書き軽妙な司会をするギャリソン・キーラー(ギャリソン・キーラー)、姉妹で各地を渡り歩いてカントリーソングをデュエットするロンダ(リリー・トムリン)とヨランダ(メリル・ストリープ)、シンガーソングライターを夢見るヨランダの娘・ローラ(リンゼイ・ローハン)、少し下品な歌を得意とする二人組みダスティ(ウディ・ハレルソン)とレフティ(ジョン・C・ライリー)らが舞台の合間のひとときを最後の感傷に浸りながら、それぞれの人生と歌を、陽気にそしてちょっぴり悲しく語り合う。

 大企業の思惑によって取り壊される運命にある劇場と、時代に押し流されて行く人々の哀歓と希望を、ミシシッピ川上流の都市・セントポールのとばりのなかに浮き出させている。

 メリル・ストリープが歌うカントリーが心にしみた。

(於いて:元町 シネ・リーブル神戸 Cinema 2 04/10日)
監督・制作:ロバート・アルトマン
原案・脚本・出演:ギャリソン・キーラー
出演:メリル・ストリープ/リリー・トムリン/リンゼイ・ローハン/ケビン・クライン/トミー・リー・ジョーンズ/ヴァージニア・マドセン/ジョン・C・ライリー/L・Q・ジョーンズ/ウディ・ハレルソン
原題:A PRAIRIE HOME COMPANION
配給:ムービーアイ
日本公開日:2007年3月3日
2006年/アメリカ/105分
投稿者 愉悠舎 日時 2007年4月11日 (水) シネマの窓 | 個別ページ


2007年4月18日 (水)
東京タワー オカンとボクと、時々、オトン

  母に対する思いを綴ったリリー・フランキー の自伝的小説「東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜」の映画化である。

 1966年小倉、酔って玄関の扉を突き破って帰ってきたオトン(小林薫)は3歳のボク(※1)の口いっぱいに焼き鳥を串のまゝ突っ込み、「フジカシングルエイト」でその様子を撮影する。怒ったオカン(※2)はオトンに向かって行く。
 オカンとボクは筑豊の実家に帰り、オカンは女手ひとつでボクを育てる。
 1978年、ボクは大分の美術高校に入る。駅まで送ってくれたオカンが持たせてくれたカバンのおにぎりと漬物に、 目頭が熱くなるボク、15歳の春のことであった。
 1981年、東京の美大生になったボクは勉強もせず学校へもあまり行かなかったため、4年で卒業できなかった。それでもオカンは苦労して学費を送り続けてくれた。
 1993年、ボクはオカンを東京に呼び寄せた。ボクは30歳になっていた。
 2001年、東京に来る前から患っていたガンが再発し、オカンは入院した。オカンとボクは病院の窓から東京タワーを見上げていた。
 オカンの最期にオトンは九州からやってきた。
 1958年(昭和33年)、かつてオトンが目指した東京に見捨てられたとき、工事中の東京タワーの前でオトンは写真を撮っていた。中途半端な東京タワーはその後のオトンの生き方を象徴していた。

団塊世代前の私とボクは20年近くも歳が離れている。にもかかわらず、ボクの生活感覚や人生感覚は私のそれとオーバーラップする。ボクの世代は私たちを許容できる最後の世代なのであろう。

 親が子を思う気持ち、子が馳せる親への思いはいつの時代も変わことはない。

(於いて:三宮 国際松竹 Cinema 2 04/17日)
監督:松岡錠司
原作:リリー・フランキー
脚本:松尾スズキ
音楽:上田禎
配役(※1):幼少時代のボク;谷端奏人/小学校時代のボク;田中祥平
/中学、高校時代のボク;冨浦智嗣/ボク;オダギリジョー
配役(※2):若い頃のオカン;内田也哉子/オカン;樹木希林
出演:オダギリジョー/樹木希林/内田也哉子/松たか子/小林薫/渡辺美佐子/佐々木すみ江/原知佐子/仲村トオル/小泉今日子/宮崎あおい/松田美由紀/柄本明
配給:松竹
公開日:2007年4月14日
2007年/日本/142分
投稿者 愉悠舎 日時 2007年4月18日 (水) シネマの窓 | 個別ページ


2007年4月25日 (水)
ブラックブック

  「ショーガール」、「氷の微笑」などの作品を撮ったポール・バーホーベン監督が故国オランダに戻り、23年ぶりの作品となった「ブラックブック」は、昨年のオランダ映画祭で作品・監督賞(ポール・バーホーベン)、主演女優賞(カリス・ファン・ハウテン)を受賞した。

 1944年9月、ナチに占領されたオランダのハーグを舞台に、家族をナチに殺され一人生き延びたユダヤ人女性・ラヘル(カリス・ファン・ハウテン)の復讐を迫力のある展開で画いたサスペンス風のドラマである。
 レジスタンスに救われたラヘルはユダヤ人の名前ラヘルをエリスに変え、髪をブロンドに染め、ナチに抵抗するレジスタンスの地下運動に加わる。
 ドイツの敗色濃い1945年、レジスタンスの要請によりスパイとしてドイツ軍将校・ムンツェ大尉(セバスチャン・コッホ)に近づいたエリスは彼の愛人となり、家族や同胞の復讐を胸に、幾多の裏切りにあいながらも解放のときを生きて迎える。

 ナチの迫害を辛うじて逃れたユダヤ人女性が危険を覚悟で復讐に立ち上がる数ヶ月間を第二次世界大戦末期のオランダの風物の中に押し込んでいる。

 同じ時期、アムステルダムの屋根裏に潜んだユダヤ人少女アンネ・フランクを匿い、彼女をナチに売ったオランダ人の恥の部分が、ときとして映し出される沈んだ映像にダブる。
 人はいつも善意であり続けられない、状況により悪意に墜ちて行く、オランダ人・レジスタンスの裏切りを表出することにより、人間の弱さを拾いあげている。

(於いて:三宮シネフェニックス 04/24日)
「Black Book」について
ドイツが敗れる半年前にドイツ軍司令部とレジスタンスの協定を仲介したハーグの弁護士デ・ブールの日記帳のことで、実在した可能性が高いとされている。
仲介の交渉中にレジスタンスにいた密告者を「ブラックブック」と呼ばれる日記帳に書きとめた。デ・ブールはハーグ解放直後に暗殺され、「ブラックブック」も無くなった。
監督:ポール・バーホーベン
製作:ジェローン・ベケル
製作総指揮:グレアム・ベッグ
原案・脚本:ジェラルド・ソエトマン
撮影:カール・ウォルター・リンデンローブ
音楽:アン・ダッドリー
出演:カリス・ファン・ハウテン/トム・ホフマン/デレク・デ・リント/セバスチャン・コッホ/ハリナ・ライン/ヴァルデマール・コバス/ミヒル・ハウスマン
英題:BLACK BOOK
配給:ハピネットピクチャーズ
日本公開:2007年3月24日
2006年/オランダ・ドイツ・イギリス・ベルギー/144分
投稿者 愉悠舎 日時 2007年4月25日 (水) シネマの窓 | 個別ページ


2007年5月17日 (木)
消えゆく映画館

 また一つ神戸から映画館が消える。
 阪急三宮の駅舎ビルの中にあるOS阪急会館が5月22日をもって61年間の歴史に幕を閉じる。
阪急三宮駅高架下にあったOS系の三劇に続いて阪急会館が昨年10月にオープンしたシネコン「ミント神戸(8スクリーン、1631席)」に席を譲るかたちで店じまいする。

 三宮センター街にあった三宮東映プラザも昨年の夏閉館。最近の神戸における映画観賞は数多くのスクリーンを持つシネコンが主流になりつつある。

 映画館のあるビルは震災で大きく壊れ、軌道より下の部分を残し上層部が取り払われた。駅と軌道をまたぐように建てられていたビルはヨーロッパ風で、ビルに出入りする電車と一体になった光景を、神戸の風景として折々に私の脳裏をかすめる。
 壊れる前、ビルには阪急会館、阪急シネマ、阪急文化と三つの映画館があった。震災後縮小され1館2スクリーンとなって今日まで映画の灯をともし続けた。
 震災でビルと運命を共にするはずであった映画館が、多くの映画ファンの支えにより今日まで生き延びた。しかしながら、時代の流れは名館の一つ一つを消してゆく。

 19日(土)〜22日(火)のあいだ「OS阪急会館さよならフェスティバル」と銘打って過去に当劇場で人気のあった作品が阪急会館の最後を飾る。
 上映作品は「荒野の七人」「アンタッチャブル」、「ウエスト・サイド物語」「イージー・ライダー」、「ゴッドファーザー」「トップガン」、「大脱走」「ローマの休日」である。

投稿者 愉悠舎 日時 2007年5月17日 (木) シネマの窓 | 個別ページ