日本統治下の朝鮮事情

日本統治下の朝鮮事情

2010年7月24日 (土)
交通網
 下図は1937年(昭和12年)の内地と朝鮮半島及び中国各地を結ぶ主要な陸海路である。過日、『戦没した船と海員の資料館』を訪れた時、同館より入手した。

 朝鮮半島における主な鉄路の開通は、1905年(明治38年)に京釜線(京城~釜山)、翌1906年(明治39年)には鴨緑江までの京義線(京城~ 新義州)が開通した。その後、1911年(明治44年)鴨緑江(中国と北朝鮮の国境)鉄橋の完成により新義州~安東(現在の中国・丹東市)が全線開通し、同年安奉(安東~奉天「現瀋陽」)線全線(安東-撫安)の標準軌線が開通し、日本、朝鮮、満州を結ぶ大動脈の完成をみた。日本から関釜連絡船経由で朝鮮半島を縦断し満鉄(南満州鉄道)へと繋がった大動脈は人的・物的輸送の飛躍的な増大を見た。

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投稿時刻 08時00分 日本統治下の朝鮮事情 | 個別ページ


2010年4月20日 (火)
第1回 韓国併合への道・伊藤博文とアン・ジュングン NHK
 18日午後9時から放映されたNHKのドキュメンタリー、「プロジェクトJAPANシリーズ 日本と朝鮮半島 第1回 韓国併合への道 伊藤博文とアン・ジュングン」は奥行きの深い見ごたえのあるものだった。

 NHKはシリーズの主旨を次のように述べている。

 「1910年の韓国併合から100年になる。日露戦争後の世界で日本はどのようにして大韓帝国を併合したのか。その後35年に及ぶ植民地支配や、戦時動員の実態はどのようなものだったのか。さらに戦後の関係改善はどのように行われていったのか。5回シリーズで日本と朝鮮半島の100年の歩みに迫っていく」(NHKオンライン)。

 このシリーズは毎月1回放映される予定で、第1回は、1910年の韓国併合を前にした1909年(明治42年)ハルピン駅構内で、当時枢密院議長であった伊藤博文が朝鮮の独立運動家安重根(アン・ジュングン)に暗殺された事件に到るまでの軌跡を、二人に焦点を合わせ、日朝それぞれの立場から韓国併合への道を模索している。

 「韓国併合」をめぐる歴史的評価は日本と韓国(両国政府と言うべきか)の間に隔たりがあり、両国民の間でも諸説紛々である。NHKは伊藤博文について最近発見された新資料に基づき、伊藤博文は欧米列強との協調を考慮し、一種の「自治植民地」も視野に入れていたとしている。

 二人の軌跡を追いながら番組は韓国併合へ迫って行く。伊藤博文は日露戦争後の1905年(明治38年)韓国を保護国化し第2次日韓協約を結ぶと、韓国統監府を設置し初代統監に就任した。この時より事実上の日本の統治時代が始まった。一方、大韓帝国皇帝高宗(コジョン)は密使外交により日本の支配を打破(第二次日韓協約の無効を訴える)しようとし1907年(明治40年)オランダのハーグで開かれた万国平和会議に密使を派遣したが、欧米列強に会議の出席を阻まれた(ハーグ密使事件)。

 ハーグ密使事件を機に、伊藤博文はコジョンを退位させると、朝鮮国内に義兵闘争が広がって行く。義兵闘争とは、李王朝皇帝の危機に際して、在野の臣といえども自発的に挙兵して賊と戦う義があるとして起こした反日武装闘争(1896、1905~14年)のことである。そして、1909年、伊藤博文は安重根によりハルビン駅構内で暗殺された。

 「韓国併合」は日朝両国民にとって、大きなターニングポイントとなった。

 伊藤博文がハルピンで暗殺された当時私の母は未だ生まれていなかったが、この事件について親から聞かされていたのだろう、時々母の口から「ハルピン事件」の言葉が出ていた。祖父は当時、京畿道水原(キョンギド スウォン)警務顧問支部に勤務していた。

投稿時刻 20時49分 日本統治下の朝鮮事情 | 個別ページ


2010年2月21日 (日)
裁判及び監獄
 朝鮮総督府が編纂した「最近朝鮮事情要覧[第1冊]第5版(大正2年3月30日発行)」から第十六章・裁判及び監獄の項を編集する。(極力原文を踏襲する)(国立国会図書館蔵「近代デジタルライブラリー」より)(今日から視れば適切でない表現もあるが、負の遺産として未来への教訓とするために、往時の表現をそのまゝ使用する)

第十六章 裁判及び監獄

一 裁判制度

朝鮮総督府裁判所は朝鮮総督に直隷し、朝鮮に於ける民刑事の裁判及び非訟事件に関する事務を掌(つかさど)る、而(しか)して其の事務取扱に関しては三審制度に則り、分って高等法院、覆審法院及び地方法院の三種とし、又地方法院事務の一部又は全部を取扱わしむる為、地方法院支庁を設置せり。

地方法院は民事及び刑事に付第一審裁判を行い、且つ非訟事件に関する事務を取扱う覆審法院は地方法院の第一審の裁判に対する控訴及び抗告高等法院は覆審法院の第二審の判決に対する上告及び抗告に付裁判を行い、且つ高等法院は裁判所構成法に定めたる大審院の特別権限に属する職務を執行す。

地方法院は判事単独にて裁判を為すとも訴訟物の価格千円を超過する民事事件、人事訴訟事件、破産事件、刑法第七十四条及び第七十六条の犯罪事件、本刑死刑無期又は短期一年以上の懲役者若しくは禁錮に該る犯罪事件(裁判所構成法に定めたる大審院の特別権限に属する事件を除く)及び其の共犯事件にして本事件と同時に審判する場合は三人の判事覆審法院は三人の判事高等法院は五人の判事を以って組織したる部に於いて合議裁判し、且つ各裁判所に検事局を併置し検察事務を掌らしむ、今裁判所在地、其の数及び職員を挙げれば下の如し。

朝鮮総督府裁判所所在地

・高等法院(京城)

 ・覆審法院(京城、平壌、大邱)

  ・地方法院(京城)-<京城>-開城、驪州、水原、仁川、春川、鉄原、原州

             -<公州>-大田、江景、鴻山、洪州、端山、天安、清州、永同、忠州

             -<咸興>-北青、元山、永興、江陵、蔚珍、清津、鏡城、城津、会寧、慶興

         (平壌)-<平壌>-安州、徳川、鎮南浦、新義州、義州、定州、寧邊、江界、楚山

             -<海州>-瑞興、黄州、載寧、松禾

         (大邱)-<大邱>-金泉、尚州、安東、義州、慶州、盈徳

             -<釜山>-蔚山、馬山、密陽、龍南、晋州、居昌

             -<光州>-順天、木浦、長興、済州、全州、錦山、南原、群山、

裁判所職員配當一覧(大正元年十一月末日現在)

高等法院、覆審法院、地方法院、地方法院支庁の判事、検事、書記長、通訳官、書記、通訳生、夫々の職員数内訳を記しているが、内訳を略して総数のみ下記。
•判 事 ・・・ 内地人167人、朝鮮人 49人
•検 事 ・・・ 内地人 54人、朝鮮人  6人
•書記長 ・・・ 内地人  4人、朝鮮人 -
•通訳官 ・・・ 内地人  4人、朝鮮人 -
•書 記  ・・・ 内地人 200人、朝鮮人 68人
•通訳生 ・・・ 内地人  38人、朝鮮人 85人

上表中朝鮮人にして判事又は検事たるものは、民事に在りては原告、被告とも朝鮮人たる場合、刑事に在りては被告人朝鮮人たる場合に限り其の職務を行う。

二 適用法規

現今朝鮮総督府裁判所の適用せる法規は明治四十五年四月一日より施行の民事令、刑事令に依り内地の法規を適用せりところ、民事については民法中能力、親族及び相続に関する規定は之を朝鮮人に適用せとせずして従来の慣習に依ることと為し、又不動産に関する物權(ぶっけん)の種類及び効力に付いては民法に定める物權を除くの外、尚慣習に依ることとせり、刑事に付いては殺人罪、強盗罪に限り當分の内朝鮮人対し舊韓国刑法大全の効力を有せしむることとせり。

三 監獄

監獄は従来の一部として舊韓国内部の管轄に属し、其の事務は警察官の兼掌する所なりしが、明治四十年十二月監獄官制を公布し法部の所管に属せしも、典獄以下の職員を置き明治四十一年一月京城監獄の事務を開始し、次いで七箇の監獄及び十二箇の分監を開設し、明治四十二年十一月朝鮮総督府監獄を開設し、舊韓国監獄及び内地人囚徒を収容したる理事庁監獄の事務一切を承継し、明治四十三年十一月朝鮮総督府監獄を開設し、統監府監獄の一切を承継し以って現時に至れり、目下朝鮮に於ける監獄の数九、分監の数十三、在監囚人数一万三百余人なり、下に其の概況を挙げる。

監獄職員配置一覧・在監人員数一覧

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イ、拘禁及び行刑の概況

舊韓国監獄制度改正以前に於ける各地の監獄は獄舎の狭隘不完全、拘禁の軋轢不規律殆ど想像も及ばざる状態なりしも鋭意之が改善に務めたる結果漸次獄舎の改築、規律の粛整及び行刑の統一を見るに至れり、就中(なかんずく)遇囚方法の改善は一般の囚情をして益(ますます)平穏に趨(おもむ)かしめ、従って遷替(せんたい)悔悟(かいご)の兆候を認むる者を続出し、遂年仮出獄者を増加するの傾向を来せり、又仮出獄者に対する取締に付いても、従来内地の例に倣い来りたるも朝鮮の実況に適せざるものあるを以って、新に仮出獄者をして処世上少なからざる便宜を得せしめたるに、其の成績頗(すこぶる)良好にして本年十月迄に仮出獄を許可したる者下の如し。



仮出獄者:明治42年3月~43年12月迄(41人)、明治44年(99人)、明治45年1月~大正元年10月(162人)

ロ、作業の概要

監獄作業に付いては鋭意其の拡張普及に努めたる結果、遂年就業者を増加し今や遠からずして全囚の就業を見るに到らんとするの趨勢なり、然るに其の業種に付いては監獄作業として適当と認むべきもの甚(はなはだし)く、鮮(すくな)く将来は一般商工業の発達に由りて適当なる業種に在監者の努力を徭役せんとする企業家の出ずるを期待せり、今就業者の概況を示せば下の如し。

 受刑者就業人員表、監獄作業収入額表 略

 - 第十六章 裁判及監獄 終わり - 

投稿時刻 10時55分 日本統治下の朝鮮事情 | 個別ページ


2010年2月12日 (金)
警察機構及び取締の対象等
 祖父が統監府へ出向を命じられたのが1907年(明治40年)9月、その前後朝鮮に於ける警察機構は以下の様に推移している。

・1905年(明治38年)11月 韓国統監府に警察を設置

・1910年(明治43年)7月 大韓帝国は警察権を日本帝国に移譲

・1910年(明治43年)8月 韓国併合、大韓帝国政府と統監府が朝鮮総督府に改組

・1919年(大正8年)8月 警務総監部を廃止し警務局を設置、地方の道に警察権を移譲、道庁に警察部を設置、憲兵警察制度を廃止、

 朝鮮総督府が編纂した、「最近朝鮮事情要覧[第1冊]第5版(大正2年3月30日発行)」から第十七章・警察の項を編集する。(極力原文を踏襲する)(国立国会図書館蔵「近代デジタルライブラリー」より)(今日から視れば適切でない表現もあるが負の遺産として未来への教訓とするために、往時の表現をそのまゝ使用する)

第十七章 警察

一 警備機関の配置

かつて、暴徒の戡定(かんてい)と秩序の回復に全力を傾注せし警察も仁政の普及と共に諸般の産業振興し、民心頗(すこぶ)る安定せしを以って、警備の方法も亦(また)自ら一変せさべからず仍(に)て、従来執り来りし警察力集中の方鍼(ほうしん)を変更し、分散的警備機関を配置し、其の管轄区域は平均一郡強に対し凡(およ)そ一警察署又は警察事務を取扱う憲兵分隊若(もしく)は文遣所を設置せり、即ち下の如し。

警備機関一覧表


ニ 海上警備

従来、木浦(モッポ)、麗水(ヨス)の両地には各五隻の警備船を配置し、専ら沿岸及び島峡の警備に任せしめ、来りしも沿岸交通の頻繁となるに従い、十隻の警備船にては其の警備を全うする能(あたわざる)が故に、四十四年一月以来陸軍運輸部より汽船五隻を借入し、之(これ)を釜山、仁川其の他要所に配置し、一般海上の警備並びに密貿易の取締り及び遭難船の救護に務めしめつつあり。

警備船一覧

警備母船:第二扇海丸(汽船) 三三二噸、警備母船:第二浦賀丸(汽船) 一七〇噸、警備母船:第一新高丸(汽船) 一六五噸、警備母船:台東丸(汽船) 二三噸、警備母船:第一神戸丸(汽船) 一七噸

警備船:石油発動機船(各五噸)十隻、警備船:揮発油発動機船(各三噸)五隻

上記の後に写真2葉掲載、北部警察署(在京城)と韓国政府時代の刑具(右掲載)

三 警察官の養成

内地人巡査教養の為、京城北部順化坊帯洞元韓国赤十字病院跡に警官練習所を設置し、新に採用せる巡査を約三ヶ月(警察官の前歴あるものは一ヶ月間の練習を為し朝鮮各道の欠員を補充せしむ、又朝鮮人たる巡査補の養成は各道に於いて之を為し執れるも、初級警察官として必要なる学科を教授す。尚、将来は京城に於ける練習所に、特に練習科を設置し、現職の警部巡査中より選抜したる者に特権の教育を施すことを計画なす。

四 富籤(くじ)類似其の他取締

懸賞又は富籤類似其の他の射倖の方法を用いんことを提供し、又は投票を募集せんとするもの漸く増加し、ともすれば弊害の之に伴うものあるを以って、四十四年四月朝鮮総督府は府令を発し、これ等の所為を為さんとする者に、京城に在りては警務総長其の他の地方に在りては警務部長の許可を受くべきことと為し、而して事項の学術技芸に関するものに就き懸賞の方法を用いとするものに在りては此の限りにあらずとせり。

五 引火質物貯蔵取締

石油、揮発油、酒精、燐寸、煙火の貯蔵所を建設するもの漸次増加し、危険の虞(おそれ)あるに由り、四十四年六月朝鮮総督府は府令を以って引火質物貯蔵所取締規則を発布し、これ等物件の貯蔵所は京城に在りては警務総長、其の他の地方に在りては警務部長の許可を受くるに非ざれば建設することを得ざることと為せり。

六 信用告知業取締

他人の商取引、資産其の他信用に関する事項を依頼者に告知するの業に為すもの少なからず之が取締を加えるの必要を認め、四十四年七月朝鮮総督府は府令を発し信用告知業取締規則を定め、其の業務を為さんとするものは京城に在りては警務総長、其の他の地に在りては警務部長の許可を受くべきことと為せり。

七 狩猟取締

従来朝鮮に於ては狩猟に関する法規なく、其の保護鳥獣たると否とを問わず之が捕獲は各自の自由に放任せられたるも、時世の進運は永く其の放任を容さず、漸く之が取締の必要を感じ遂に明治四十四年四月朝鮮総督府令を以って狩猟規則を発布し、之が取締を為せしも近頃其の不備の点を発見し、大正元年九月府令を以って其の一部を改正せり、本規定の要旨は野生鳥獣の捕獲、野生鳥類の巣又は卵及び雛の採取狩猟の場所、狩猟の方注(銃器、張綱、鷹)及び時季、学術研究又は有害鳥獣駆除の為、其の他特別の事由に因る保護鳥及び狩猟期間外の特別捕獲、狩猟免状、免状の有効期間、免状手数料、剥製品若くは羽毛の輸出営業等に関する事項にして、狩猟期間は毎年十月一日より翌年四月三十日の七ヶ月なるも威鏡南北道平安南北道の四道は毎年九月十五日より翌年四月三十日迄とす、而して免許手数料は甲乙特別の三種にして甲種は(猟具は張綱若くは鷹)三円、乙種は(同上銃器)七円、特別は(薬用材料の為銃器にて鹿熊其の他一定の野生獣類を捕獲せんとする者に一年間の免許有効期間を付するもの)五十円にして再下付手数料を一円と為、其の十月までの免許下付数は五千八百二十七枚にして、昨年に比すれば一千二百五十七枚の多を見る。

八 銃砲火薬取締

従来朝鮮に於ては銃砲火薬類の取締に関し、内地人に対しては各領事館令理事庁令を以って規定を設けありしも不備の点多く、且つ其の規定事項も区区に亙(わた)りたるか為、執行上の寛厳其の軌を一にする能わざるの嫌ありたり、又朝鮮人に対しては隆煕元年九月法律第五号銃砲及び火薬類團束法の適用あり、内容に於ける主要の点は(イ)銃砲火薬類の製造、販売、所持授受及び運搬は総て許可を受くべく(ロ)其の他火薬貯蔵に付ての制限規定アリ(ハ)該当官庁は行政上の処分としては許可の取消及び物件の領置の職権を行うことを得(ニ)法の違反者に対しては禁獄、笞(むち)刑、罰金、没収に処することを得る等にして之に依り咯ほ取締の目的を達し得べきか如しと雖(いえども)、鉄砲火薬類の如き危険物の取締に付いては製造、販売、貯蔵及び運搬等は最も厳重の方針に依ること緊要なるのみならず、其の他之に伴う詳細の規定を要すべきが故に、敍上(じょじょう)諸種の事由に依り内鮮人を同一法規の下に取締るの必要を認め、大正元年八月制令第三号を以って銃砲火薬取締令を、同十月府令第二十五号を以って施行規則及び警務総監部令第四号を以って施行細則を発布し、孰(いず)れも元年十二月一日より施行することとせり、法の主要とせし所は(イ)軍用鉄砲の製造及び改造と火薬類の製造とは絶対に之を禁じ(ロ)非軍用鉄砲の製造又は改造は鉄砲製造業者及び行政官庁の許可を受けたる者に限り(ハ)火薬類の変形又は修理は行政官庁の許可を受けたる者に限り(ニ)鉄砲火薬類の輸出入、移出入、譲渡及び譲受には許可を受けしめ(ホ)行商、市場、露店其の他屋外の販売を禁じ(ヘ)取締上の必要あるときは輸出入、授受、運搬携帯若しくは使用を禁止し又は制限を為すの途を設け(ト)其の他臨検又は帳簿書類の検査若しくは假領地に関する事項を規定したり又施行規則及び同細則に於ては(イ)鉄砲火薬類の範囲(ロ)取引、授受、使用、運搬、貯蔵其の他取扱の事項(ハ)取扱人に関する事項(ニ)作業所、貯蔵所に関する事項(ホ)其の他願届の事項等に関し詳細なる規定を制定し、従来不備なりし取締上の欠点を補い遺憾なからしめ適用且つ完全に施行するを得べきことを期せり。

九 古物商取締

古物商に関しては、舊(きゅう)韓国政府時代は何等法規の制定せられしものなく、古物の売買譲与は自由に放任せられたるが為、鮮人古物商に就いては全く取締の途なく、又内地人に就いては領事館令又は理事庁令を以って規定せられたるものありたるも、其の規定区に流れ且つ不備の点多く、殊に近年開港地は勿論其の他朝鮮内各地に内地人の移住する者漸次増加し、従って内地人鮮人古物商の数亦(また)多きを加え、昨年末調査に依れば営業者の数九百八十八人(内地人八百十九人、鮮人百六十九人)となり、従来の如き不備の法規にては到底之が取締の目的を達する能わざるのみならず、鮮人に在りては其の生活状態は併合以来著しく変遷を来し、物価の騰貴と内地人増加に伴う就職の困難は延べて彼等の生計に影響を及ぼしたること少なからず、これ等の原因は即ち生活上の困難と為り、強窃盗、詐欺、横領等犯人の増加を見、之が増加の反面には不正の物品を売買、交換する者の数加わるも亦(また)自然の趨勢にして、以上諸種の事情は古物商取締法規の発布を痛切に感ずるに至りたるを以って、明治四十五年三月制令第二号を以って、古物商取締令に関しては古物商取締に依るべきことを定め四月一日より之を施行したり、之が施行に付(イ)古物商は売主、譲渡主に於いて其の物品を処分するの権利を有することを確認したる後に非ざれば、買受交換を為すを得ざることと為し(ロ)不正品の疑いあるものは申告すべきことを命じ、以って不正品の販路を杜絶(とぜつ)し、同時に不正品の発見を容易ならしむることとせり、其の他(ハ)伝染病毒に汚染したる物品の取締(ニ)家族、雇人の営業上に於ける責任の帰着を明かにし取締上の便益を得たり、同時に又総督府令第二十二号を以って古物商取締に関する制令施行規則を発布し(イ)営業者を自ら管理せざる店舗の規定(ロ)行商、露店、市場に関する規定等を切実にし、以って営業者業務上の便利と取締の完備とを期し(ハ)品觸れの制度(ニ)帳簿の記載事項及び保存期限を定め、以って不正品の発見を容易ならしめ、同時に営業者が不慮の損失を蒙ることなからんことを期せり、而して同年四月施行以来十月に至る六箇月間に於いて其の取締の為、賍物(ぞうぶつ)を発見し、之に據りて犯人を検挙したる件数、人員及び発見價額を示せば下記の如し。

一 犯罪検挙件数             一〇四

二 同  人   員               九七

三 賍物発見件数             二〇六

四 同   價   額   一、八四三、円〇六〇

一〇 質屋取締

質屋の取締に関し、朝鮮人に適用すべき法規としては光武二年十一月法律第一号典當舗規則、及び農商工部令第三十一号典當舗細則ありしが為、取締上甚だしき不便なかりしも内地人に就いては領事館令又は理事庁令を以って取締法規の定めありしも、其の規定事項としては甚(はなはだ)しく区区に亙り、従って取締上の緩厳其の宜しきを得ざるのみならず、尚取締法規なき地方に於いて支障少なからず、殊に併合以来内地人の朝鮮内に移住する者年々増加し来り、開港地は勿論其の他の地方にも内地人の質屋業を為す者益多きを加え、明治四十四年末調査に依れば質屋業者総数千二百三十四人(内地人六百四十一人、鮮人五百九十三人)なり、斯(かか)る状況なるを以って全朝鮮内に施行すべき共通法規の必要を感ずるに至りたるのみならず、内地人と鮮人との取締上の権衡も亦(また)甚(はなはだ)しき差異あり、不都合少からずを以って明治四十五年三月制令第三号を以って質屋取締に関しては質屋取締法に依らしめ、内鮮人を同一法規の下に取締まることと為せり、但し朝鮮にては経済上の状態と其の業務上の蓄積とは内地と同一に律すべかざるものあり、仍(よっ)て利子制限、流質期限、質物処分及び質物の減失又は毀損(きそん)の場合に於ける損害の負担に関しては別段の規定を設けることを得べき特例を認むることと為し、総督府令第三十二号を以って制令施行を発布し、其の条項中に利子の割合、流質期限、質物の減失又は毀損(きそん)の場合に於ける損害の負担の方法は認可を受くべき旨を定め、償いあるものにして弊害なき以上は可なり認可するの方針を採り、且(かつ)経済上の関係より利子の割合は取締法の制限に依らざることを得る旨の例外規定を認めて施行上最も適切ならんことを期したり、其の結果実施後に於ける状況は頗(すこぶ)る良好且(かつ)適當(とう)なる状況に於いて執行せられつつあり、尚施行規則に於いては(イ)営業者自ら管理せざる店舗の規定を設け(ロ)典當舗の名称を用いて営業することを得せしめ(ハ)組合の設置を認め(ニ)品觸れの制度(ホ)帳簿の調製及び保存の規定等を設けたり、之に依り不正品の発見に多大の便利あらしむるのみならず、一面営業者をして不慮の損害を蒙ることなからしめ、且取締上の便宜を得ることを期せり、此の法令発布の効果は著大にして同年施行以来十月に到る六箇月間に於て質屋取締に依り発見したる賍物の発見件数及び価格又之に拠り検挙したる犯罪の件数、人員等を挙ぐれば下の如し。

一 犯人検挙件数              四八〇

二 同   人 員              二九五

三 賍物発見件数              七七六

四 価     格      四、二一七、円四〇〇

十一 遺失物に関する件

遺失物に関しては、従来何等特別の法規なく朝鮮人に対しては取得の場合に於ける届出又は隠匿に就き刑法大全の規定あるのみにて、内地人に対しては内地の遺失物法に準じ之を取扱い来りしも、斯(か)くては之が統一を欠くのみならず其の不便尠(すくな)からず、仍って明治四十五年五月制令第二十三号を以って遺失物其の他の物件に関する規定を発布し、犯罪者の置去りたるものと認むる物件、誤りて占有したる物件、他人の置去りたる物件、逸走の家畜又は埋蔵物に関しては遺失物法に依ることとし、同時に之が施行に関する府令を発布し同年六月一日より実施するに到れり。

十二 寄付金品募集取締

従来朝鮮人に対しては、舊(きゅう)韓国の寄付金品募集取締規則に依り朝鮮総督之を許可し、内地人及び外国人に対しては明治三十九年四月発布の統監府令保安規則に依り、京城に在りては警務総長、其の他の地方に在りては警務部長に於て認可し居たりしが、該規則は取締官庁と許可官庁とを異にし不便少なからざるを以って四十四年十一月朝鮮総督は府令を以って寄付金品募集取締規則を発布し、内外人たると朝鮮人たるとを問わず之を取締ることと為せり。

十三 消防

従来京城其の他内地人の居住する市街地に在りては従来消防の設備に関する経費は民団若しくは民会に於いて之を負担し警察之が監督を為したりしが今日に在りては消防の設備を欠きたる地方に於ても之が組織を見るに到れり大正元年十一月の調査に拠れば朝鮮全土に於ける消防組織数は下の如し。

・内地人のみ組織するもの           三四組

・内地人朝鮮人合同組織するもの       九一組

・朝鮮人のみ組織するもの          一一八組

                          二四三組

十四 犯罪状況

明治四十五年上半期に於ける犯罪発生数は二萬二千三百二十五件にして、検挙件数は一萬七千二百四十件なり、客年の下半期に比すれば犯罪発生数に於いて五千一百、検挙数に於て四千五百三十二を増加せり、此の現象は実際犯罪の増加にあらずし、前述せる警備機関の分散的配置に由り、警察力の普及と共に自然犯罪の発覚するに到りしと、又一般鮮民に於いても犯罪必訴の観念の発達せるとに起因するが如し、而(しか)して犯罪種別は窃盗、強盗、詐欺取財、博徒、傷害罪、猥褻、姦淫等最も多し。

十五 犯罪即決に関する概況

明治四十五年上半期に於て犯罪即決の件数は九千七百四十九件にして、其の内博徒罪及び諸取締規則違反最も多く、其の他は傷害犯又は警察犯処罰規則違反等なり、而して一般人民の感想は何れも裁判に於けるが如き日数を要せず、治罪の形式簡略にして而も処断公正且敏速なるが為、適切なる制度なりと称し居れり、仍って正式裁判の請求を為すもの至りて少なく即決総件数中其の申請を為せしば僅か十二件にして内無罪となりしもの二件なり。

十六 民事訴訟調停の概況

明治四十五年上半期に於ける民事争訟調停件数は内外人合して五千百二件にして、之を客年下半期に比すれば一千七百五十二件の増加なり、一般人民の之に対する感想は其の取扱敏速にして手数簡易、殊に日数及び費用を要せざる点に於いて歓迎するものの如し、而して其の事件は金銭請求小作物引渡し及び其の他物品引渡請求事件も多くして漸次著しく増加の傾向あり。

十七 警察犯処罰規則改正及び実施後の状況

従来朝鮮に於いては警察犯に対する取締は、四十一年統監府令四十四号警察犯処罰令に依りしも、同令は朝鮮人に努力を有せず、一般取締上往々其の均衡を失し遺憾の点少なからずと一般刑事に関する法令の整理統一を期する趣旨とに依り、朝鮮内に在る内外鮮人を同一取締の下に置くの便宜なるを認め、刑事令発布に際し四十五年三月朝鮮総督府令第四十号を以って右処罰令を改正し、所定罪目を八十七に類別し舊(きゅう)令に十二種の罪目を加え、此等は主として朝鮮現時の実状に照し朝鮮人の行為として取締を要すべきもの、又は警察取締に属すべき諸営業の幾部、其の他に対する取締を厲行(れいこう)する主旨に依りたるものなるが、改正発布後の状況は一般に良好の成績を示し安寧秩序の保持、特殊弊風の矯正等効果大に見るべきものあり、其の他加罰上に於ても輕重其の宜しきを得、又社会公衆に於ても此等法規の改正は時世の要求に伴う適切の措置なりと称し居れしが如し、改正後に於ける加罰件数を挙げれば一千三百九十五件にして、本令実施上に於いて違反者の必罰に偏するが如き幣あるを認めず。

十八 執達吏事務取扱概況

明治四十五年上半期に於ける執達吏事務取扱件数内地人は一万一千八百十八件にして、朝鮮人は七千四百四十五件なり、其の手数料内地人は二千七百十九円二十七銭にして、朝鮮人は三千四百十六円十五銭なり、又之が取扱事件は漸次著しく増加しつつあ、而(しか)して朝鮮人に対する強制執行事務は明治四十一年以降舊(きゅう)韓国民刑訴訟規則に基き警視警部をして執行官吏とし総ての有体動産に対する執行及び特定物の引渡を目的とする執行事務に従事せしめ、又明治四十二年司法権委任と共に勅令に依り内地人及び外国人に対する該事務も亦警察官吏に委せられたりしが、明治四十五年四月朝鮮民事令実施に依り内、鮮、外、人共に同一手続に依ることとなり、目下釜山に於いての執達吏専務者に於いて取扱を為し居るを除く外全部警察官吏をして同事務を取扱わしめつつあり。

- 第十七章 警察 終わり - 

投稿時刻 12時34分 日本統治下の朝鮮事情 | 個別