• うしろ姿のしぐれて行くかー種田山頭火ー

JR上野駅公園口(柳美里)

1933年(昭和8年)生まれ、 72歳の男が2005年を上野駅公園口で迎えた。
そこで見たものを男の在りし日に遡行させながら、戦後から高度経済成長期を経て低成長期の今の「負」に言及している。
福島の相馬出身の男は1963年、オリンピックに沸く東京へ出稼ぎに、歳月を経て72歳の2005年、再び東京は上野の駅頭に立つ。
己が過ぎ去り日々を気負うことなく淡々と振り返る。
柳美里の鋭い感性は終始「天皇制」にも目を向ける。
今は少し薄まってきたが、日本のマスメディアには三つのタブーがあった。
「桜タブー・菊タブー・鶴タブー」、「桜タブー」とは自衛隊、「菊タブー」とは天皇、「鶴タブー」は創価学会であり、これらを批判することは強権により業界から抹殺された。
今でもこの三つを批判するには相当の覚悟がいる。
その天皇の言動を所々感情を排し淡々と語る柳美里の文章に、「天皇制」の本質が見事に滲み出ている。

最近、視力が落ち読書の機会がメッキリ減った。
単行本や文庫本がスラスラ読めたころ、柳美里はいつも私の傍にいた。
私にとって柳美里が最後の芥川賞作家になった。
女史の今後に期待する。